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書籍・雑誌

2012年7月14日 (土)

西の善き魔女、アーシュラ・クローバー・ル=グウィン女史

ポートランドでぜひお目にかかりたい人は? と、聞かれたら、迷わずアーシュラ・クローバー・ル=グウィンUrsula Kroeber Le Guinの名前を挙げるに違いありません。
それほど、昔から憧れ続けている作家のひとりです。

1929年10月21日生まれの82歳。彼女は今なお、オレゴン州のポートランドで元気に暮らしています。
名前の綴りからフランス人かと勘違いする人がいるかもしれませんが、カリフォルニア州バークレー生まれのアメリカ人です。

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その代表作は、いうまでもなく『ゲド戦記』であり、『天のろくろ』であり、『闇の左手』、『所有せざる人々』など、ヒューゴー賞やネビュラ賞などを受賞した名作ぞろいです。

彼女のウエブサイト、www.ursulakleguin.com
をのぞくと、82歳の今もかくしゃくとしたその姿を見ることができます。眼力にあふれ、磨き込まれたその知性が風貌に宿るかのような、美しき老作家の姿に魅力を感じる人も多いはずです。素晴らしき文字の達人は、風情もまた美しき人なのでした。

ウエブサイトには住所なども記されていて、ファンレターなども送れるようになっています。でも、茶目っ気たっぷりの彼女は、「私にはセクレタリーなんかいないから、手紙のひとつひとつに全部自分で目を通さなくっちゃならないのね、だから時間がかかるのよ。申し訳ないけど、お返事は期待しないでね」なんて書かれていて、わらっちゃいます。

すでにご存じの方も多いとは思いますが、彼女の知性と才気は両親から受け継ぎ、努力とセンスで磨き上げられたものでしょう。

父親は高名な人類学者、アルフレッド・L・クローバー氏。カリフォルニア大学バークレー校にアメリカで二番目の人類学科を創設した人類学者でした。母親は、物言わぬ夫に代わり、夫が関わった北米先住民ヤナ族最後の生き残りのひとりを、本に書き、言葉で世間に広めた作家です。シオドーラ・クラコー・ブラウン女史が書き上げた物語は『イシ ふたつの世界に生きたインディアンの物語』という児童書で読むことができます。岩波現代新書から大人版の『イシ』も出版されていますが、私は、まず児童書で読みました。

そこに描かれている世界は、ル=グウィン女史の物語世界に多大な影響を与えました。ちなみに、アーシュラ・クローバー・ル=グウィン女史は、コロンビア大学で博士号をとった後、フランスに渡り、1953年に歴史学の教授だったチャールズ・A・ル=グウィン氏と結婚。3人のお子さんに恵まれました。1958年からオレゴン州ポートランドに住んでいます。

●ゲド戦記 Ⅰ 影との戦い

ル=グウィン作 清水真砂子訳 岩波書店

2012年6月18日 (月)

ピアスの「トムは真夜中の庭で」を読んでみて

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▲写真はカナダ・ノバスコシア州で見つけたキルト

近頃、子供のためのファンタジーに惹かれています。
イギリスの作家・フィリッパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」をご紹介しましょう。時間をテーマにした幻想ファンタジーです。

イギリス・ケンブリッジ州グレート・シェルフォードに生まれた作者は、祖父の代から製粉業を営む名家の出身。ケンブリッジ大学を卒業後BBCで学校放送を担当し、後に「ハヤ号セイ川をいく」で作家デビューします。本作品は、カーネギー賞を受賞した作品です。

ストーリーは、夏休みを弟のピーターと楽しく過ごそうと思っていたトムに、突然訪れる不幸から始まります。なんと、ピーターがはしかにかかって、自分だけおばさんの家に預けられることになってしまいます。子供のいないおばさん夫婦と一緒に過ごす時間がいかに退屈でつまらないものか、トムはすぐに思い知るのですが、そこには予想もしない不思議な世界が待っていました。

おばさんの家は、イギリス・イーリーの街を過ぎ、住宅が立ち並ぶカールスフォドの一画にあります。昔は大邸宅だったその建物には、アパートには不釣り合いな広いホールがあって、大きな箱形の古時計が置かれていました。おばさんから「絶対触っちゃだめ、大家さんに怒られますよ」とたしなめられたのですが、おばさんからの必要以上のもてなしと運動不足で、不眠症にかかってしまったトム。チックタックと時を刻む古時計が夜中、ありもしない13時を打つと、トムはその時計の音に導かれるようにベッドを抜け出していきます。そして、ホールの裏のドアから外へ遊びにいくようになるのですが、そこに広がっていたのは、想像だにしない大庭園でした。アパートの裏手に、そんな庭園などなかったはずなのに……。

トムはそこで、少女パティに出会います。両親を亡くし、いとこたちと暮らす孤独なパティ。日を追うごとに少女は成長し、大人へと成長していきます。やがて二人は庭園を抜け出し、結氷した川をスケートで滑り遊ぶようになるのですが、それは夢か幻か、はたまた現実の世界なのか。ストーリーはやがてパティの人生へも入っていきます。

やがて、ピーターのはしかも直り、トムは家に帰ることになるのですが、庭園でパティと過ごす時間がとても大切なものになっていたトムは、もう少しおばさんの家で過ごしたいと言い出します。すっかり夜の世界のとりこになってしまったトム。パティとも不思議な縁で結ばれ、その縁をつなげていくトムでしたが、パティとはいったい誰で、どうしてトムは、パティと出会うことになったのか?

本書の幻想的なストーリーは、ディティールを緻密に描くことで成り立っています。もの悲しく、思春期の少年少女の孤独と心情が、幻想的な世界と相まって絵のように展開します。が、ややもすると単調。ドラマチックな展開がお好みの読者には、物足りなさが残るかもしれません。

しかし、最後のどんでん返しを読んで「なるほど、こういうことだったのか」と納得する筋立てになっています。だから、最後までご一読を!
小学校5~6年生向きの本書ですが、大人が読んでも楽しいファンタジーです。

■児童書・ファンタジー
トムは真夜中の庭で
フィリッパ・ピアス(イギリス)
高杉一郎訳
岩波少年文庫刊

2012年6月16日 (土)

雨の日は、「みどりのゆび」を読んでみて

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雨ですね。北山公園の菖蒲も濡れそぼっているかな。

こんなお天気の日は、家でゆっくりお気に入りの本を読んで過ごすのもいいですよね。

私のおすすめは、フランス人作家モーリス・ドリュオンの名作『みどりのゆび』。

ジャクリーヌ・デュエームの繊細なタッチのイラストとともに、くもりのない心を持った少年チトの物語がつづられていきます。

この本の存在を初めて知ったのは、小学生の頃。学校の図書館の本棚で見つけ、その不思議なタイトルに心惹かれたのですが、一度も手に取ることなく時は過ぎてしまいました。そうして、大人になって読んだら、とても素敵な心に残る物語でした。

読後、心に残ったのは、サンテグ・ジュペリの『星の王子様』を読んだときにも感じた、透明な切なさでした。全編を通して、詩を読むかのように物語は進み、研ぎ澄まされた文章に心が癒やされていきます。あらためて、言葉が持つ美しさを再認識させてくれた本です。

物語は、フランソワ・バチストと命名され、みんなから「チト」と呼ばれる、不思議な親指を持った男の子の物語。金色の髪の毛とバラ色のほほを持ち、ぴかぴかの家に暮らすチトは、誰からも愛される子供でした。大金持ちの家に生まれたチですが、彼のお父さんは、なんと鉄砲の商人。チトの暮らすミルポワルの町は、武器産業で潤っていたのです。

8歳になったチトですが、授業が始まると居眠りばかりで、ついに学校から退学させられてしまいます。それからのチトは、お父さんの発案でお抱えの庭師ムスターシュと一緒に園芸の仕事に精を出すのですが、チトが土の中に親指をつっこむと、あら不思議、次々とベゴニアが咲き出すではありませんか! それがチトの秘密だったのです。

「みどりのゆび」を持ったチトの社会勉強は、その後も続きます。刑務所、貧民街、病院などなど、人々が悩み傷つき、眼を覆いたくなる現実を学びに街に出たチトは、現実を知り、「なぜ?」と自らに問いかけながら、「みどりのゆび」を使って、次々とチト・パワーを繰り出すのです。そして汚れなきチトのゆびは、ついには、鉄砲商人であるお父さんの武器工場をも変えてしまうのですが……。

最後にチトが思いをめぐらしたことは、「死」についてでした。なぜなら、チトにとって最大の理解者だった庭師のムスターシュおじいさんが亡くなってしまったから。

そして最終章、チトは、寝ても覚めても「はしご」のことが頭から離れません。それは、チトが何者だったのか、私たちに教えてくれるヒントなのですが、その答えは読んでからのお楽しみ。

先の見えない不安な社会に暮らす私たちですが、チトのような純粋無垢なパワーを発揮すれば、少しはましな社会に近づけるのかもしれません。

ぜひ、大人のあなたもご一読を! 癒やされた後、深く思いをめぐらすことになるでしょう!

■児童書・ファンタジー
みどりのゆび
モーリス・ドリュオン(フランス)
安東次男訳
岩波少年少女文庫